もしも『赤い収穫』を映画化するなら2

 名を知られるのみでフィルムが焼失してしまうなどの理由から作品が現存しない映画。現存しないという事実によって神格化されるその作品を、人は恋焦がれるように「観たい」と求めるだろう。求めても虚しければ、やがて人はそれを想像力において復元しようと望むかもしれない。わたしにとって『赤い収穫』は、この手の神話的なフィルムである。
 観たい。狂おしいほど観たい。

 しかしわたしたちに与えられたのは『赤い収穫』の黒沢的翻案『用心棒』をリメイクしたと称するウォルター・ヒルのアホ映画『ラストマン・スタンディング』みたいなものばかり。
 むむ、かくなる上はやはり、自分でつくるしかないか。

 まず始めになすべきは、監督に、地獄の辺土からサム・ペキンパーを連れ出してくることだ。この際だから、死人を蘇らせる魔法やらタイムマシンやら勝手気ままに駆使して、スタア集めをやってみよう。

 コンチネンタル・オプには四十年前のロッド・スタイガー。『暗黒の大統領カポネ』で「おれの名はカポネじゃない、カポーンだ」と凄んでみせた頃の――。(スタイガーは2002年に故人となった。『ハリウッド・ゲーム』が遺作ではないけれど、最後のすがたとなる。バート・レイノルズ、トム・ベレンジャーとコンビを組んで、過去の栄光を忘れられない老スターという泣かせる役を演じた。)

――と、ここまでが、架空キャスティングの書き出し。

 なんて書いてしまったのだけどね。
 いや、やっぱり、オプは、ハーヴェイ・カイテルか、ダニー・アイエロだろ。
 とはいったものの。  前記の架空キャスティング・リメイクの小鷹さんの選出では、オプ役がミッキー・ルーニーになっていた。筋金入りに年季の入ったハードボイルド・ファンには勝てないよ。ミッキー・ルーニーってヘプバーンの映画で出っ歯のジャップに扮したあのミッキーですか、とのけぞってしまった。
 オールタイムで「選定」なら、おれにだって必殺の代案があるぞ。  オプ役は、この人以外にいないというスター。発見したのは遅かったが、それは、こちらの事情さ。
 その名は、ジョン・ガーフィールド。













 あとの配役を前記「ミステリマガジン」の記事から

ダイナ・ブランドには『シー・オブ・ラヴ』
あたりのエレン・バーキン。
リーノ・スターキーにはジョン・マルコヴィッチ。『コン・エアー』のような単純に粗暴な悪役のつくりで。

ウィスパー・タイラーには『ステート・オブ・グレース』あたりのショーン・ペン。

肺病やみのダン・ロルフには『インディアン・ランナー』が最高だったヴィーゴ・モーテンセン。

ヌーナン署長にはジーン・ハックマン。『アンダー・ファイア』で道端で犬ころのように射殺される「醜いアメリカ人」役のイメージ。

ピート・ザ・フィンにはロバート・デュヴァル。

老エリヒューにはサミュエル・フラー。ゴダール映画で「映画は戦場だ」と啖呵をきったあの呼吸だ。

IWWのビル・クイントにはボブ・ホスキンズ。

ウィルソン未亡人にはショーン・ヤング。『ブレードランナー』のお人形仕様がぴったり。

コンチネンタル探偵社のおやじにはマーロン・ブランド。最近のグロテスクに肥満した姿で。(と書いてあるのだが……。やっぱり、ロバート・ミッチャムにもどしておく)。

ミッキー・ラインハンには『マニアック・コップ』のロバート・ダビ。

ディック・フォーリーには『さらば愛しき女よ』のセリフのない刑事役ハリー・ディーン・スタントン。















決まっていない役には、『ハメット』に出た頃の、まだ太っていないフレデリック・フォレストを当てよう。


これで資金調達して――シナリオはもちろんオレが書くぞ。
さてカメラマンは?

「ミステリマガジン」2001.11

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